実践的アンチエイジング講座

7、「猿が人間になるについての労働の役割」とアンチエイジング(上)

[実践的アンチエイジング講座]

 一八七六年(明治9年)に、マルクスの盟友であるエンゲルスが『猿が人間になるについての労働の役割』を執筆。それから20年後の一八九六年に雑誌『ノイエ・ツァイト』で発表した。
 明治9年というと、「少年よ、大志を抱け」で有名なクラーク博士が、札幌農学校開校と同時に教頭として招かれた年である。
 ダーウィンが、進化論『種の起源』を発表したのは、エンゲルスが『猿が人間になるについての労働の役割』を書く17年前の一八五九年である。
 ヨーロッパでは産業革命が進み、すでに工業化社会に入っていたが、まだ人間は神が創ったものだと信じられていた時代である。
 そこにダーウィンが、人間はサルから進化したともとられる『種の起源』を発表したものだから、キリスト教の聖職者たちから激しく攻撃された。
 それからわずか17年後にエンゲルスが、人間がサルから進化したと断言し、どのようにして進化したかを具体的に表わしたのが『猿が人間になるについての労働の役割』である。
 この著でエンゲルスは、「労働は人間生活全体の第一の基本条件であって、しかも、ある意味では労働が人間そのものをつくりだした」として、
 ①人間の先祖となるサルの一種が最初は樹上で生活していた。
 ②それが何らかの理由で地上で生活しなければならなくなった。
 ③そのために直立二足歩行しなければならなくなった。
 ④直立歩行したことによって、手が自由になり、手でこん棒、あるいは石などを持ち、敵から身を守った。
 ⑤その手がやがて、火打石を刀に加工するなど、新しい技能を獲得していった。
 ⑥手は労働のための器官であるだけでなく、それはまた労働の産物である。
 ⑦その手の労働によって、筋肉や靭帯などが発達し身体が作られた。
と、エンゲルスは、サルから人間になるについての労働の役割と、その過程を予測している。
 エンゲルスは人類誕生の場所を、「熱帯のどこかにー多分いまはインド洋の底に沈んでしまっている大陸のうえにー」と書いている。
 解剖学者レイモンド・ダートが、アフリカで猿人の化石を初めて発見したのは、エンゲルスが『猿が人間になるについての労働の役割』を書いてから半世紀近く後の、一九二四年である。
 今は、化石の発見やDNAの解析などによって、人類の起源はアフリカで、サルが人間になるについての全容がほぼ明らかになってきている。
 それはこうだ。
 人間の祖先となるある種のサルは、その昔アフリカの熱帯雨林で樹上生活をしていた。樹上は果実など食べ物が豊富で、大型動物、あるいはどう猛な肉食動物も少なく、サルたちにとっては楽園であった。
 ところが、1000万年ほど前に、アフリカで大規模な地殻変動が起こり、南北に蛇行する大きな谷であるアフリカ大地溝帯ができた。
 そのことによって、アフリカ大陸の東部が、東西に分断され、大地溝帯の西側は、これまでのように温暖湿潤な地域であったが、東側は大西洋から吹き込んでいた湿った風が遮られ、熱帯雨林が消滅し、草原と変わってしまった。
 東側に取り残されたサルはやむ得なく草原で暮らさなければならなくなった。
 さて、草原に出たサルはどうなったであろうか。
 草原は、熱帯雨林で生活
していたときは、木から木へと飛び移り移動していたが、草原ではその木がない。
 サルは仕方なく立って、二足歩行で移動することにした。
 この直立二足歩行が、サルから人間への決定的な分かれ目となった。
 サルが直立二足歩行することによって、何がどう変化したのであろうか。
 まず、これまで木から木へと渡る器官であった手が空いた。
 サルは、その手で物を持つことを覚えた。手は次第に、物が持ちやすいように、親指と他の4本の指が向き合ってきた。やがて、手は石や棒など、原始的な道具が使えるようになってきた。
 草原にはどう猛な肉食動物がいた。樹上で生活していたときは、その外敵から身を守るのに樹上に逃げればよかったが、草原では逃げ場所がない。思わず、手に手ごろなこん棒を持って応戦することもあった。
 しかし、逃げられず食い殺されるサルもいた。事実、頭蓋骨にヒョウの牙によって穴を開けられた猿人の化石が見つかっている。
 次に変化したのは喉の構造である。
 直立することによって咽頭が下がり広がって、複雑な音声が出せるようになってきた。
 草原に出たサルは、相手をかみ殺すような強い牙もなければ、ひっかく爪も、猛獣から逃げるための早い足も持たない、弱い動物であった。
 外敵から身を守るためには一人では敵わない。そこで集団で生活するようになってきた。集団で生活すると、お互いの意思の疎通が必要になってくる。そこから簡単な言語が生まれた。
 草原には果実のなる木がなかった。小動物を捕まえて食べた。時にはサルより大きな動物と出会うことがあった。そんなときは集団で、協力し合って捕まえた。
 サルは火を使うことを覚えた。動物の肉は、生より焼いた方が食べやすく、また美味しく消化も良かった。
 草原に出たサルは、こうして手を使い、道具を持って労働し、集団で生活をし、言語を話すことによって、脳の発達を促した。
 また、直立二足歩行することによって全身を、他の動物では考えられないほど自由に動かせるようになってきた。それに伴い様々な筋肉が発達してきた。
 そこから、気の遠くなるような長い長い年月をかけて、現人類と進化し、発展してきた。
 この進化の根底となるものが、直立二足歩行と、それに伴う労働あるいは運動である。
 これが、サルから人間への進化であり、発展過程である。

 

文:小笠原カオル
文:小笠原カオル

監修

監修:川村賢司
監修:川村賢司

プロフィール
昭和15年(1940)青森県野辺地町出身。東京医科大学卒業、元北里大学薬学部准教授、医学博士。退職後は、㈱東京科学技術研究所長などを務める。著書に『もっともらしい健康の常識』など多数。

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