実践的アンチエイジング講座

7、「猿が人間になるについての労働の役割」とアンチエイジング(下)

[実践的アンチエイジング講座]
 さて、アフリカ大陸の大地溝帯(グレート・リフト・バレー)の西側にいたサルはどうなったであろうか。
 以前と同じ熱帯雨林であり、樹上には果実があり、どう猛な肉食動物が来るとすぐ樹上に逃げた。
 サルは働いて食べ物を探す苦労もなければ、頭を使う必要も、あるいは敵と戦う必要もなかった。
 仕事らしい仕事といえば、オスがメスに果実を取ってきてあげたり、メスがオスザルを膝枕をして蚤をとってあげる程度で、毎日のんべんだらりと暮らしていた。サルにとっては楽園であった。
 そのサルはほとんど進化することなく、現在に至っている。
 それがゴリラであり、若干進化したチンパジーである。
 最新の研究によると、ゴリラのゲノム(全遺伝情報)の人間との違いは、わずか1・75㌫で、98・25㌫は人間と同じであった(英国などの国際チーム解読)。
 また、チンパジーと人間のゲノムの違いは、さらに小さく1・37㌫で、98・63㌫は人間と同じであった。
 人間がゴリラが共通祖先から枝分かれしたのは、凡そ1000万年前。チンパンジーと人間が枝分かれしたのは凡そ600万年前と推定されている。
 一方、東側の草原に出たサルは、生きるためにまず食べ物を探さなければならなかった。肉食獣が来ると逃げるか、それと戦わなければならない。逃げ遅れたものは肉食獣の餌食となった。
 寒くなると寒さから身を守らなければならないなど、過酷な条件のもとに置かれた。
 サルは、寒さと外敵から身を守るために洞穴を見つけそこで生活した。
 次にサルが覚えたのは火を使うことであった。
 一人では腕力もなく弱いサルは、やがて集団で生活するようになった。
 こうして、長い年月をかけ、一歩、一歩、サルが人間に進化してきた。
 まだ原始的ではあったが、人間に進化したこのような集団があっちこっちとたくさん出来ていった。
 その集団が、食べ物を食い尽くすと、生きるために別の集団に行って食べ物を奪うこともあった。
 食べ物を巡る集団同士の争い。これが人間が集団同士で争う戦争の始まりである。
 これが人間の本性となり、21世紀になった現在なお続いている。
 尖閣諸島問題も竹島問題も、人間的本質はこれである。
 一方、その地域に食べ物が無くなると、食べ物を探し、次の地域に移動して行った。
 人間はこうして、何万年もかけ食べ物を探し、次へ次へと移動し、全世界に広がっていったのである。
 人間は過酷な環境の中で、その環境に適応するために自らを進化させ、生きて行くに必要な筋肉と脳を発達させて来たのである。
 生きて行くのに必要な筋肉を動かし発達させる、あるいは脳を働かせ発達させる。これがエンゲルスがいう、すなわち労働、身体的労働であり、知的労働である。
 人間の筋肉の発達は、42・195㌔を休まず2時間8分1秒で走る筋肉と心臓の強さを獲得した。42㌔を休まず走れる動物は地球上には人間以外にはいない。
 また、自分の体重の3倍以上を持ち上げる筋肉を獲得。あるいは、100㍍を9秒63で走る筋肉を獲得した。
 チーターは100㍍を3・5秒で走るらしいが、せいぜい170㍍から、長くても500㍍ぐらいである。
 また、プロレスの選手のような強靭な身体と、体操選手のような柔らかい身体を獲得した。
 人間がどこまで進化したか、それを競ってきたのがオリンピックであろう。
 脳の進化は、地球より遥か離れた小惑星イトカワや、火星に探索機を飛ばすまで進化した。
 さて、『人間が猿になるについての労働の役割』はわかった。が、それとアンチエイジングはどう関係があるの??
 進化の反対は退化である。
 人間の身体で必要が無くなったもの、あるいは筋肉や脳などは、使わなければ退化する。
 人間の身体で、必用が無くなって退化したのが尾骨である。お尻の肛門の上にちょこんと出ている骨である。
 この骨は、人間がサルであったときの名残である。
 尻尾は、サルの時代、樹上で生活していたとき、バランスを取ったり、体を支えたりといった役割を担っていた。
 それが地上で生活するようになってから、必要がなくなり、使わないうちに退化してしまった。
 これは、サルから人間へなるときの進化の過程での分かりやすい退化である。
 退化は、私たちの日常の生活でも起こり得る。
 私の父は、87歳で運転免許証を更新した。が、どうしても感覚が鈍くなり、車をぶっつけたり、ひっくり返したりしたので、危険だと思い、鍵を取り上げた。
 父は百姓であるから、それまではトラクターを動かし畑仕事をし、冬に備えて、薪ストーブ用の木を、1・7㌔ほどあるマサカリでもって割っていた。
 が、鍵を取り上げてからは外に出るのをおっくうがり、ほとんど歩かなくなってしまった。
 それから5年、父の脛を見てびっくりした。
 筋肉が衰え、骨に皮がついているだけの、百姓をやっていたときの三分の一程度の太さの脛になっていた。
 つまり、脛の筋肉を使わないために、筋肉が退化したのである。
 当然、介護なしでは歩けない身体になっていた。
 このように人間の身体は使わなければ、エンゲルス流にいうと、労働しなければ退化するのである。
 これは脳についても同じである。
 先進国は長寿と共にアルツハイマー病になる人が多くなっている。アルツハイマーは、高齢に伴う一種の脳の退化である。
 が、アメリカのラッシュ大医療チームによると、高齢による脳の退化は避けられないが、人生に目的を強く意識しているひとは、アルツハイマーの進行が非常にゆっくりと進むという研究結果を発表している。
 私の身近なところでは、95歳で青森山田学院の理事長に就任した、元青森大学学長の盛田稔先生がまさにそうである。脳を使っているのである。盛田先生は、あと10年ぐらいは仕事をしたいといっている。
 アンチエイジングにとって一番大切なことは、盛田先生のように、60歳はまだ若者で、80歳になろうが90歳になろうが、身体と脳を働かせ、退化を遅らせることでる。

文:小笠原カオル
文:小笠原カオル

監修

監修:川村賢司
監修:川村賢司

プロフィール
昭和15年(1940)青森県野辺地町出身。東京医科大学卒業、元北里大学薬学部准教授、医学博士。退職後は、㈱東京科学技術研究所長などを務める。著書に『もっともらしい健康の常識』など多数。

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